奇跡の水に科学のメス
    7/29毎日新聞(企画特集 夏と水と健康)より

「水」に対する関心が高まり、食料品やスーパーに並ぶペットボトル入りの水の種類も増えている。日本は水に恵まれた国で水道水の品質も良く、水を買い求める習慣はなかったが、ここ数年で水市場は大きく成長し、ブランド商品化の傾向も見られる。おいしさだけでなく、健康に良いことも、水を選ぶ条件のひとつだ。健康に良い水はどういう水であり化学的な根拠は何なのか。どのような効果が期待出来るのか。活性水素水の機能を解明し水に関する共同研究で成果を上げている白畑實隆・九州大学大学院教授に聞いた。


九州大学大学院教授
白畑實隆さん
しらはた さねたか 1950年、鹿児島県生れ。78年、九州大学大学院農学研究科食料科学工学専攻博士課程修了。87年、米国オレゴン州立大学生化学・生物物理学科訪問助教授。89年、九州大学大学院農学研究科遺伝子資源工学専攻助教授。95年、同教授。現在、九州大学院農学研究院遺伝子資源工学部門教授、同大学院システム生命科額府生命工学講座教授併任。

水を選ぶ基準として、まず安全性やおいしさなどが挙げられます。

白畑=水質は年々悪化し、生活排水などで汚れた水を浄化して使っている状況です。水道水の品質の劣化は気になるところですが、すぐに危険というわけではありません。
殺菌されていて、衛生基準を満たしている水です。ただ、長期的に飲んだ場合の評価は今後の課題でしょう。
水のおいしさはマグネシウムやカルシウム、ナトリウムなどの成分比率にかかわりますが、味は味覚の問題で、人によって好みも違います。世界の名水といわれる水でも、日本人には合わないような硬水もあります。

水の選択肢のひとつとして、健康面の効果が注目されています。

白畑=健康に良い水というのは根拠があって、それを実証する研究データの裏づけがなければなれません。私たちの研究がその先駆けになればよいと思います。

世界には「奇跡の水」と呼ばれるような、健康を回復させるという評判の水があります。 フランスのルルドの水やメキシコのトラコテの水、ドイツのノルデナウの水など。科学の目で見て、普通の水との違いは?

白畑=ルルドの水については、ノーベル医学賞をもらったアレクシー・カーレルの伝記の中で紹介されていて興味を覚え、病気を治す水が本当に存在するのだろうかという疑問を持ちました。
活性酸素の研究をしていましたので、奇跡の水といわれるものが、老化の原因である活性酸素を消去する働きをするのではないかと想像できました。

老化を防ぐ活性水素水
それから、健康によい水のメカニズムを科学的に立証するため、本格的に水の研究に取り組みました。
その結果、これらの水には活性水素が多く含まれていることが分かりました。活性水素というのは原子の状態にある水素のことで、さまざまな病気の原因となる活性酸素と反応して水になることで、活性酸素の毒性を消してしまうと考えられます。

酸化・還元というのは中学の教科書にも出てくる基礎的な原理です。活性酸素が害をもたらすのは、相手から電子を奪って酸化してしまうからです。還元とは水素と結びつき、相手に電子を渡す化学反応です。
活性水素の側から見ると、活性酸素に電子を渡して還元したことになります。

水素は宇宙が誕生した最初の原子で、そこからすべての物質が出来たのです。あらゆる物質の親である物質をたくさん含んでいるのが水なのです。
水の中で生命は生まれ、水なしで私たちは生きていけません。水というのは非常に安定した物質で、もし壊そうとすれば4000度くらいの熱をかけないと壊れません。ところが、不思議なことに、電気に弱くて、ちょっと電流が流れるだけで水素が出てきます。 一瞬のうちに活性水素を大量に発生させて還元水を作る技術も可能になりました。
そういう人間の知恵で作った人工的な還元水(電解還元水)も、実は自然にお手本としてあるわけで、それに気づきなさいというのが、奇跡の水の教訓ではないかと思います。
ただし、奇跡の水はどこにでもあるものではなく、各地の水を調べましたが、日本では日田天領水など大分県の日田で採取される水に匹敵するような活性水素水は、今のところ他には見当たりません。
そのような水がなぜそこだけにしかないのか? 活性水素が発生してもそれが水の中に安定して水の中に存在する仕組みが必要で、そのためにはミネラルとくっつかないといけない。それがうまく合う条件が、たまたまそこにあったのではないかと思われます。

糖尿、がん、アレルギー。効果に期待も
活性水素水は具体的にどのような症状の改善に有効ですか。
白畑=そういう水を飲むことによって、例えば糖尿病の場合、すい臓のインスリンの出や血糖の取り込みが良くなって改善することをマウスを使った実験や実際の症例が示しています。また、悪性のがん細胞が、水を変えたら増殖速度が落ちて、転移侵潤が押さえられ、体の免疫力も高まることを確認しています。
還元力のある水はビタミンCなどと比べても、細胞内の活性酸素を消す働きの持続力が違います。
それを体内に取り入れることによって、免疫機能の回復が見られます。がんの種類を問わず、効果があるのではないかと考えて、広範囲な研究にとりかかっています。
アレルギーについては、九州大学の小児科の教授との共同研究で、強度のアレルギー体質の学生に協力してもらい、症状の改善が見られました。同じく第2内科と共同で脳梗塞を防ぐ研究を、理学部と一緒に神経細胞が再生することを証明する研究をすすめているところです。
その結果、活性水素水は老化にともなうアルツハイマー痴呆などにも効果があるだろうと考えています。

特にこのような天然水は有限なので、大切にしなければなりません。良い水を評価しながら、水道水を良い水に変える電解還元水をつくる技術や、汚い水を安全な水に変えていく技術も必要です。

コップの水を一口飲めば数分で全身に行き渡ります。まさに水は命そのもの。そう考えたとき、結局行きつくところは水に対する感謝です。ありがたいと思って皆が飲むようになれば、世界が変わるのではないか。世界中の人々やあらゆる生き物と共に生きる共生の時代に水の心を知って欲しいと思います。